目黒考二『笹塚日記 ご隠居篇』

1冊の本として読むのは、実は意外に難しいのかもしれない。何しろ3月から読みだして、読み終わったのが7月だったりする。

本の雑誌』に連載されていたこの日記、毎月連載されていた際の1月分が実に妥当だったのだと思えるくらいに、その1月分を超えて一気に読むことがなかなか出来ない。

実に見事なまでに変化に乏しいのが魅力であり、本を読み買い物をし料理をし本の雑誌社に顔をだし本を読んだまま寝て週末は競馬へ、というこの単調さが実に良い。

今回読み返して印象的なのは、笹塚の著者の部屋が本の雑誌社のビルの上階だったということで、社員たちと接する場面が意外に多い。浜本・杉江・松村・浜田・藤原と、今私は本を開かずに社員たちの名前を挙げたのだけれど、ホンの一行か二行断片的な言及がなされる社員たちがまた、結構強い印象を残していたりする。

反面、何十冊と取り上げられている、著者が日記中で言及していた本のことは、全くと言って良い程読了後には印象に残っていない。これは現在まで『本の雑誌』上で連載されている、坪内祐三の『三茶日記』と対照的なのだと思う。坪内日記には多分にジャーナル的・アーカイブ的な発想があって、本来書物に関する雑誌に掲載されているのだから、むしろそういった性質を有する方が自然なのだけれども、敢えて言えば余り後先考えずに毎号毎号何となくその時点で面白かった本を挙げていくという『本の雑誌』に相応しいのは、やはり目黒日記なのではないか、という気がする。