検察庁法改正に関する公文書管理についてのメモ

 黒川東京高検検事長の定年延長が閣議決定される

 →法的根拠は何かという批判が出る

 国家公務員法の定年延長規定が検察官にも適用可能だという説明

 →従来は適用範囲外という解釈だったではないかという批判が出る

 →小西参議院議員国立公文書館で、解釈を記載した1980年当時の総理府の公文書を発見する

 →人事院の松尾給与局長も、1981年の適用範囲外とした人事院答弁の解釈は継続されているという答弁をする

 

 森法務大臣が、閣議決定前の1月に人事院と協議して法解釈を変更したと答弁をする

 →人事院の松尾給与局長も、以前の答弁は誤りだったとして、1月に法務省との協議があったと答弁する

 →では大臣の決裁は取ったのか、文書を提示するよう野党の小川衆院議員から要求が出る

 

 森法相は口頭で決裁を行ったと答弁し、日付の入っていない法務省人事院の協議時の文書のみが提示される

 →それに対して毎日新聞が情報公開請求を行ったところ、やはり日付の入っていない文書のみ開示され、かつ法務省刑事局は口頭で決裁を行っていたので決裁文書はなく、意思決定過程の議事録も存在しない旨を取材に回答*1

 

 …こう改めて記すだけでうんざりしてしまったのですが、まず決裁は文書主義の原則に照らして、そもそも決裁を口頭で行うということ自体があり得ませんし、公文書管理法及び法務省行政文書管理規則*2に違反ということになります。

 

公文書管理法の第4条で意思決定の過程を合理的に検証することのできるよう、文書は作成するのが原則であって例外として軽微な場合だけ作成しないと定められており、法務省の規則も同趣旨の内容が定められています。そもそも大臣が決裁する時点でそれは意思決定でありかつ軽微な案件でもない訳ですから、口頭での決裁が許される余地は皆無な訳です。

 

従ってこの森法相と法務省刑事局の口頭での決裁、という説明は全くの珍答弁の類です*3。じゃあ公文書管理法の文書作成義務に反した口頭での決裁などを日常的に行っているのか、という公文書管理の大問題で批判を受けることは明らかだからです。いみじくも小川議員の同様の質問に対して人事院の松尾局長が、決裁は取っていないけれども人事官たちの口頭での了承は取った、と答弁していることは、この松尾局長の答弁自体が政権上層部の指示で無理やり言わされているのではないか、本来松尾局長が答弁していた人事院の解釈は不変で従って法務省との協議による解釈変更などなかったのではないかという問題はともかくとして、未だ本来の公文書管理の原則に踏みとどまろうとした説明であることと対比的です*4

 

その後さすがに森法相も口頭での決裁ではなく口頭での了承だった、と答弁したこともあったようですが、肝心の人事院との協議など法解釈変更のための手続きについて正式に決裁を行った、という立場は堅持し、その決裁の文書の有無については口頭で決裁を行ったという説明は維持しており、現に毎日新聞の情報公開請求の際も法務省はその姿勢で対応しているのですから、結局同じような状況です。

 

それにしても驚くのは、これほど公文書管理について無理筋な説明を行ってまで森法相と法務省刑事局が明らかにしたくないというのはどれだけ重大な事実が隠されているのだろうか、ということです。

 

こう言っては何ですが、1月の段階では口頭で了承済みで、手続きの瑕疵があって文書上の決裁は後日になった、と決裁文書などが開示されれば、未だ怪しいなりに公文書管理上はより問題の無い対応も可能だった訳ですが、そういった手すら打たずに口頭での決裁という迷言が飛び出すのは余程のことがあったに違いありません。この口頭での決裁という明らかに批判を受けそうな説明を行うに至ったからには、この公文書管理的には有り得ない恥ずかしい弁明を行ってでも隠したいだけの問題でも起きていたと考える他ありません。

 

有り得る可能性は第1に、実は野党から指摘が出るまでは人事院の1980年代の解釈のことすら把握していなくて、後日その点で批判を受けたので、慌てて法解釈変更の手続きがあったことにした、文書どころか法解釈変更とその協議自体が虚妄だったという凄い事態です。

 

第2はそこまではいかないけれども、協議の内容なり手続きなりにかなりの問題が在って、とても表立って公開できる文書ではなかった、という事例です。ちゃんと刑事局の担当者から課長、局長、事務次官、大臣と全承認権者の決裁を得ていなかったとか、文書の内容に後日の野党からの批判を受けた点がやはり記述されていたとか。

 

いずれにしましても、公文書管理に関する重大な疑義ということで、森法相を始め今回の口頭での決裁なるものに関与した法務省の担当者と幹部の皆さんには、国会での証言などできちんと喚問を受けて欲しいところです。少なくとも本来決裁文書だったら押印している筈の事務次官や刑事局長などには、国会でどういう風に口頭で決裁を行ったのか、証言をお願いしたいところです。まあ本来公文書を作成するのは、後日そういった口頭での追加説明をいちいち行わないでも済むように検証するためなのですから。

 

 

*1:

検察定年延長「議事録」なし 解釈変更打ち合わせ 法務省「決裁は口頭、文書なし」 - 毎日新聞

*2:

http://www.moj.go.jp/content/001255591.pdf

*3:森法相の衆院予算委での答弁は以下のリンクから。それにしても「それ以外については、口頭において決裁することも多いものでございます。」は口頭了承と取り違えて答弁したのかもしれないが、ここまで堂々と文書主義に反した闇決裁をあっけらかんと答弁している事例は、公文書管理法が制定されて以降さすがに初めて観たかも。

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*4:この一事を観て、松尾局長という方は人事院の官僚としては一般的な感覚をお持ちで、当初の答弁が局長自身の正直な見解だったのだろうなあとは思うところで、既に報じられた放心状態の表情や茂木外務大臣からの露骨な指示で席に戻る場面には勝手ながら同情を禁じ得ないところです。

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