中野三敏『和本のすすめ』

id:DG-Lawさんの世界史本について書いた時(http://d.hatena.ne.jp/shigak19/20150705/1436089732)、意外なところで役立った1冊。

概説書としては、率直に言って結構説教臭い。日本人たるもの英語よりも変体仮名を読め、和本も取り扱えない知識人など何だ、と実に鼻息の荒い老人の語り口なのだけれども、その老人というのが日本近世文学と和本の道の大ベテランというところが並の老人の説教との違いと言える。

そのようなテイストの本書、和「本」が主題であって、「古文」「古典文学」「近世文学」の入門書でないという辺りがミソで、面白さを生んでいる。古典文学の全集等で活字化された和本など1%にも満たないと活字復刻本を批判する著者だけあって、和本の出版・本の形と内容の種類・製本や印刷の方法・現代の世界における和本の保存状況等々、なるほど古典文学全集だけを眺めていてはなかなか知ろうと出来ない領域を辿っていく。

江戸しぐさ」なる得体のしれないものを文部科学大臣までが広めようとしている昨今、迂遠なようでいて近世日本の経験を地に足の着いた方法で引き継ぐための一端を、著者は提示している。下手な道徳論では、商いとしての出版業や、遊女関係の出版物等は視野に入ってこないだろう。

敢えて言えば、通説批判に基づく出版法令の解釈等、日本近世史のような隣接領域での成果との関係は少し気になった。今年ちょうど出ているシリーズ日本近世史辺りと付き合せてみたくなるところ。

個人的に面白かったのは「第5章 海外の和本事情」で、日本文学史研究においても、国際的なレベルでの原資料の保存・収集・公開が重要になっていることが伺えて、文学系の資料保存について余り知らないのでなかなか興味深かった。