『ガ―ルズ&パンツァ― 最終章』第2話

 割と最近になってようやく第1話を観たので、第2話はまたしばらくしたらレンタルで観よう…と思っていたところ、偶々検察庁法改正案反対のハッシュタグをツイートした水島努監督のところに似非保守の人々、それも某ガルパン協力者までが反論のツイートを寄せるという一件があり、アニメ監督が政治的発信をしてはならないかのような議論に辟易して、それへの抗議もあってつい課金して映像を観てしまった。そこで例によってだらだらとメモ。

 

 構成自体はごくオーソドックスながら、相変わらず細部の作り込みぶりは十分で、TV版を楽しめた層ならば間が空いていてもそのまま楽しめるので、一見の価値あり。以下は作品の中身に触れるので未だの方は一見の後どうぞ。

 

 いやあまあダンケルクの奮戦はともかく、ベアルン搭載の魚雷が活きる日が来るとはでしたねえ。最後はまあH部隊がとどめをさすのはしょうがないというか…という記述が大嘘だとお分かりの方は以下をどうぞ。二重に警告しましたので、一つ宜しくどうぞ。

 

 まず相変わらず構成はある意味ワンパターンなまでに、1回戦終盤→試合間の大洗一同の動き→他校1回戦のダイジェスト→2回戦中盤まで、というTV版の複数話をまとめたようなシンプルなものですが、分かっていても最後は良い所で切るなあ次回も観たいなあ、という感じなのも確かです。

 

 それぞれの細部の作り込み具合も例によって大したもので、とりわけ戦車戦については、1回戦の終結部、2回戦の序盤から中盤の戦闘シーンはまあ良くぞここまでという、一気に畳み掛けるような力作になっております。

 

 今回の1回戦は何と同士討ちという、まあ邪道と言えば邪道なのですが、TV5話でアリサの無線傍受に王道の抗議ではなく、相手の不文律に偽交信という邪道で対抗しているので、そこはまあ今回そんなに逸脱した感じは無く、追い詰められたら何でもひねり出して躊躇しないのがみほ流とは言えそうなところで。

 

 ただ最初に観た時は、いやいやさすがのみほと優花里もまさかあそこまでの本格的同士討ちに発展するとは思っていなかったのでは、と前述の邪道という批判には否定的だったのでした。観返すとそど子が撃破が目的ではないと明言していて、これはつまり同士討ちの誘発のみを目的としていて、1両や2両の撃破であるとか、同士討ちとまでは行かないまでも敵味方識別に混乱をきたした有利な状況で攻めかかるとかいう水準の話ではなかったという。2回目を観て先程の弁護は取り消し、みほと優花里はなかなかの謀将になりつつあるのだなあという見解は抱かざるを得なくなったところでした。

 

 逆に通説に違和感があったのは、マリーの名隊長振りは同士討ちを止めるハイジャンプに所謂ユパ様仲裁とそこからの反攻については明らかなのですが、そもそも同士討ちが拡大するまで全く戦況把握をしていなかった迂遠さはさすがにどうなのかと。1両行動不能車が出ていた段階で押田・安藤の両者に喚問していたらあそこまで同士討ちが致命傷になることはなかっただろうにと。

 

 その点、大洗もTV版4話でろくに状況報告も出来ず敵前逃亡で撃破された初陣を経験している訳ですが、その後は各車が行動不能時には直ちに報告を出して隊長車に情報共有している描写が毎回のようになされている辺り、やはり基礎基本として意味があるのだなあと。隊長が現有戦力とその配置を把握するというのは王道ながら怠るとエラーになる要素と言えそうです。

 

 この辺り、マリーに限らず隊長のマリーにも報告を上げようとせず、専ら両小隊長に指示を仰いだ両小隊の隊員にも問題はある訳ですが、小隊単位の指揮系統分断を解消できなかった、また両小隊から兵力を抽出せず隊長直属の兵力を設けなかったことも含めて、マリーの限界ではないかという気はします(この点劇場版では独断専行気味の突撃が目立ったものの、この最終章第2話の後半では西隊長の下で玉田・細見の両小隊長が隊長と随時協議し命令を受領した上でより細かい指示を出すという、ちゃんと中級指揮官らしく対応していたなあと)。

 

 また邪道でえげつないみほ達は、同士討ちの誘発で満足するだけではなく同士討ち前からBC自由側の各車の位置をくまなく調べているのも、却ってあざとい印象かもしれませんがある意味基礎基本を徹底していて、それは勝因の1つに違いなかろうと。

 

 それにしても戦車道においてフラッグ車ないし隊長車が完全な休憩状態にある例というのは、公式戦だけでもこれでTV版9話のプラウダに続いて2例目で、相手を舐めていたという側面もあるにせよ、一体車外で完全な休憩状態にあることにそこまでの何か利点でもあるのだろうか、と逆に考えてしまうちょっとした謎です。

 何しろ非公式戦でも、名将ダージリンの下で大洗に不敗の聖グロリアーナですら、劇場版のエキシビジョンで最後にはプラウダとの見事な連携でみほを破っていますが、あの戦いでもダージリン指揮下のチャーチルはフラッグ車にもかかわらず「のんきに外でお茶飲んでた」ことで捕捉され追尾されてしまっているのですから(さりげなく知波単の突撃並みのボーンヘッドだと言われれば、聖グロリアーナ贔屓としても全く弁護のしようがないような)。一体なぜ完全な隠遁に努めるなり、乗員も即時逆撃可能な待機態勢を取るなりしないのか、これは振り返るとかなりの謎です。

 

 日常パートではまたもボコミュージアムのシュールさが秀逸。たらし焼き屋のポスターといい、料理描写といいまあ作画色々頑張ってるなあと(あのカチューシャのキャラのポスターってあれロシア語で何て書いてあるんでしょうね、何かマリオっぽくもありましたが)。

 

 他校、ナオミが遠距離で一撃で仕留めるのって何だか『荒野の七人』のジェームズ・コバーンみたい。

 あと試合シーンでダージリンオレンジペコが登場しているので目立たないですが、とうとうこの2話では2回戦の観戦者役がBC自由学園組になってしまい、この2人組の連続観戦記録が途絶えてしまったような。まあ1話ではアッサムも含めて来て1回戦の観戦に来ていたので、3話では再登場するのかもしれませんが、贔屓の身としては大会の勝ち残り以上にこの観戦者枠から外れるのは、大洗について的確に評価できる好敵手という位置づけが無くなっちゃうようで残念なところ。

 

 2回戦、そういえばアズミって劇場版だけの外見だとケイの先輩っぽいサンダースOBな感じでしたがBC自由OBだったんだなあと改めて。

 

 2回戦の試合会場、これって『装甲騎兵ボトムズ』のクメン編ぽいなあとは思ったのですが、日本とフランスということで仏領インドシナインドシナ半島ということかなあと。あと蝶野教官が今回も審判長していますけれど、いわば大洗でコーチもしているのだから普通は直接の利害関係者ということで担当を外されるんじゃあ…。劇場版で役人が蝶野に抗議していたけれど、そもそも大洗のコーチなんで中立的じゃないって審判長忌避の申し立てをされたら案外反論が難しかったような。そして今回も登場しているのにまたも台詞のない審判C子、漫画作品の1つだとちゃんと台詞があって、稲富ひびきという名前まで付いていたのをようやく最近知ったのでした。

 

 河嶋が食事もせずに索敵しているの、さりげないですがこのシリーズに入って彼女も多少成長しているんだなあという細かい描写で。もう1つ、澤梓が食事しながらも全く抜け目なく見張りをしていて、肝試しは試合中だからまだだと沙織に言われた時他の1年生たちが「はーい」なのに対して一人だけ「すみません」と謝っているの、後段の敵を見破るシーンと合わせて益々車長として伸びていっていてそりゃまあ次期隊長の呼び声も高くなるわなと。

 

 知波単の歌謡突撃、ちゃんと蓄音機だか旧式ラジオだかでメロディ掛けているのは意外とモダンだなあと。何せBC自由もプラウダも良く考えたらあれ作品世界の中ではアカペラですものね。突撃狂と男っぽい肝の座り具合を除くと結構なモダンガールの集団という。

 

 風紀委員の場面は例によって一人三役演じている井澤詩織お疲れ様というシーンですが、普段ちょっとやる気なさそうなパゾ美の気合の入ったホラー声からの、全く怖さの無いゴモヨのほんわかさの対比が短時間なのに振れ幅があり、出番こそ少ないもののOPに続いてゴモヨの品の良い可愛さが出ているなあと(案外大洗で聖グロリアーナ風が一番しっくりくるのはこの人だったりして、やや和風寄りだけれど)。

 

 戦車戦のシーンは、敢えてみほの指示は作画のみで台詞抜きとして指示内容は隠したりと、これまで他のレビューでも指摘されているように、確かに以前のように主人公のあんこうチーム、あるいは大洗中心の視点からの描写ではなくなっているなあと。

 

 ラストシーン、西の台詞の直前で、福田がちゃんと後方警戒しているのと、玉田が以前の河嶋化しているのがまあ芸の細かいところで。エンディングのラストが今回はマカロンなので、次は和菓子かなと。

 

 個人的にはOVA・映画での6話シリーズという規模感がやはり勿体ない気はしていて、『あぶさん』とか『野球狂いの詩』みたいに半ばサザエさん時空で延々試合していたり、あるいは『テニスの王子様』みたいに日常練習回もそこそこあるような、何クールか使った方が日常パートやキャラの多さはより活きるんだろうなあと。まあキャラの描写の弱さとか、戦車戦の作画の負担から尺が延ばせないとかの問題はTVシリーズ以来なのかもしれませんが、それにしても『テニスの王子様TVシリーズって178話もあったのかとか、『ドカベン』の163話はまあ納得としてもアニメ版は短かった印象のある『キャプテン』ですら2クールあったのだなあという辺りを連想せざるを得ず。

 

 そういう意識があるので、シンプルに3話で2回戦終結、4話で準決勝終結、5・6話で決勝戦て感じになるのかなあとは思っているのですが、逆にid:c_shiikaさんのブックマークにあったように、大洗以外の組み合わせの試合をちゃんと描くという発想はそれはそれで確かに有り得るなあと。

 

 それから恥ずかしながら1話で見逃したのが、観客席に役人(あるいは元役人)がいること。良く見ると船舶科の艦底部の不良2人組が居たり、知波単にいかにもな応援団が居るのに相変わらず大洗には生徒の応援団はないのだなあとか、その代わり大洗の鉢巻きを締めた町内会関係者と思しき人達、それから大洗での試合の度に登場する旅館のご主人たちが居たりと、1コマでの情報量はかなり多いと改めて。まあこういう細部まで作り込むので、製作スケジュール自体はTVシリーズに続いて最終章でも延び気味で、完結は早くとも未だ数年掛かりそうだが、それだけの製作期間も納得の出来を維持しているのは確かで、何だかんだ次話を待ってしまうのですけれども。