『スケバン刑事』劇場版(1987年)

スケバン刑事』劇場版(1987年)

 

欠点もあるんだけれど、何だかんだで観てしまう作品。特撮映画であると同時に1980年代のアイドル映画という文脈も強く、演技がどうこう脚本がどうこう言い出すと色々言えてしまうのだけれど、やはり何だかんだ一見すると楽しい。という訳でまずは一度御覧あれ、ということで以下ネタバレ。

 

さて如何でしたでしょうか。いやー高田馬場駅前でロケした狙撃シーンが凄かったですねえ。…という記述が大嘘だと分かった方はどうぞ。二重に警告しましたので、一つ宜しく。

 

まず脚本・構成についてはもっと面白くなる要素が多かったような、という。

結局何で警察・国防省といった正規軍が動かないのか、暗闇指令(長門裕之)以下の機関も身動きが取れないのか、という説明が全く弱いという。当初暗闇指令が冷淡だったのは内偵段階だったということでともかく、敵側がヘリでの実力行使にまで出てきたのに動きが取れない理由が全く無い訳で。

そもそも主人公たち女子高生が戦う話だし、とか90分程度という尺が、予算の都合等々現実的な理由はまあ推測が付く訳ですが、そこを上手くカバーするのも構成のうちではなかろうかとは。

ベタですが、政界内の黒幕による妨害とか、正規軍側は地獄城の若者たちも見殺しにする強行制圧しか考えていなくてそれに先んじて救出作戦を行うとか、ヘリの襲撃で正規軍側と機関の指導部が壊滅するとか。

 

逆に三晃学園側の対応も矛盾しているというか、ヘリでの襲撃と本拠地での迎撃って戦略的には一貫性がないという。最初から本拠地に誘き寄せるでもなく、ヘリでの襲撃から本拠地潜入の間での別荘での宿泊時を狙うでもなく、まあ緩手ですね。

 

ヘリでの襲撃も結局単なる定点での攻防戦止まりで、爆破シーンの割に面白みがないというか、同じ東映でも『特捜最前線』のヘリ関連の話はシリーズの売り物だっただけあって、輸送とか車列の警護とかヘリならではの移動を活用した脚本も上手かったなあと。

 

バスのシーンもほとんどリアリティがなくて、鉄道とかでロケが出来たらもっと面白い逃走劇だったのかなあとは。

 

あとあんまり潜入物としての要素が無いので、これだとシリーズの基本要素である学生刑事であるスケバン刑事という設定の必然性も結局無いんじゃなかろうかと。しかし捕らえた時いきなり拷問というのも何だし、拷問までしておいてスケバン刑事が内閣機密調査室配下なのを後から知るってのももう一つ。

 

それから地獄城脱出の一番のキーがフェンスの高圧電流を落とすという設定になっているんですが、そもそも意図的に誘き出されたとはいえ主人公たちが5人も地下の水道から侵入しているんだから、多少時間が掛かろうが同じルートで全員脱出すればフェンス突破より楽なんじゃなかろうかという。

 

そういえば『スケバン刑事2』の(ある意味ぶっとんだ)物語の軸の1つである鉄仮面も、今回全然登場していないのと、初代の麻宮サキに関する言及も全然ないような(斉藤由貴主演の『スケバン刑事』では映画化まで至っていなかったので、この第2シリーズが最初の劇場版だったそう)。

 

 

逆に何だかんだ言いながら観てしまう要素は何だったかと言えば、まず主演が全盛期の南野陽子ということで、序盤の歩行者天国をピンク色のカーディガン姿で歩くいかにもアイドル映画なシーンから、終盤の服部学園長(伊武雅刀)との一騎討ちなどの特撮シーンまで、何だかんだ全編ザ・主人公という辺りがもうアイドルと呼ぶしかない。

中盤の合宿生活の場面での、もはやスケバン色ゼロではあるのだけれど、黄色のカーディガンにお下げというおよそ派手さ皆無の衣装と髪型でも様になっている辺りがいかにも全盛期(もともと初期の『週刊少年マガジン』のグラビアでもそんな感じだったか)。

 

助演陣では蟹江敬三の西脇、これが「蟹江敬三史上最高」(NHKラジオでの春日太一高橋源一郎鼎談)とまで言われた渋い良さが全開で、多分彼が出演していなかったらそもそも観ていなかったかもしれない。作中で台詞回しのレベルが明らかに違う。普通だったらより若手の男性アイドルが起用されてもおかしくない位置に良く彼を充てたものだと改めて思ったり。サキと西脇のシーンは回数も会話量もごく少ないのだけれど、その両者口数の少ない関係自体がいちいち良い描写になっている。

サキが西脇と神宮外苑聖徳記念絵画館前の通りで会う場面など、銀杏の並木道という辺りが『スケバン刑事』というよりはアイドルナンノという感じの雰囲気でこれまた良いのです。ちなみにロケ地としては他にこち亀で御馴染み勝鬨橋の側の、月島川の水門が出てきたりしたのは意外。

 

あとは「スケバン」という要素が薄らいだ感はあるけれど、相楽晴子のお京も出色。

拘束されたサキが廃人化に向けた注射を打たれそうになる絶体絶命の場面で、めぐみ(小林亜也子)が助けに来るのだが、ここで敵側の幹部を単に殴って気絶させるんではなくて、ナイフで突き刺して緊急避難とはいえ明らかに殺害してしまっているのが、思いのほかハードな描写で少し驚いた場面。

あとは牢の鍵が開いて開放されたのに、そのまま喜んで逃走しようとする生徒の方がむしろ少数派という辺りが脚本の工夫された意外な展開だった。

 

90分の本編で終盤の地獄城の攻防戦に45分もちゃんと確保しているのは構成で評価すべき点で、これによって一騎討ちなどのアクションシーンにじっくり時間を掛けることが出来、アクションシーンの質につながっている。

そしてこの終盤で、潜入する5人全員がわざわざサキと同じセーラー服を着ているのだが、何しろお京はどうももう通学していないようだし、雪乃も籍はともかく実質的には留学でこの制服はもう着ていない筈で同じセーラー服を着る必然性はゼロなのが、後のセーラー服戦士ものにつながる結構エポックメイキングな発想ではないかと言われている所以。もしもシリーズが続いていたら、スーパー戦隊プリキュアのように5人組のスケバン刑事という作品でも出来ていたのだろうか。

特撮としては爆破シーン、特に煙じゃなく炎自体の量はかなり多いのと、結構スタントでなく俳優自身の近くで爆発しているのが本格的だったり。

音楽では冒頭部とエンディングで2回主題歌の「楽園のdoor」が掛かるシーンがそれぞれ印象的。どちらも唐突に途切れちゃう感じは勿体ないけれど、萩田光雄編曲のイントロはさすが。

サキの土佐弁自体は別に写実的じゃないらしいのだけれど、「方言指導」のスタッフとして声優の渡部猛(レンネンカンプ提督だ)のクレジットが在ってへえとなったり。渡部さんは同じく高知県出身の島本須美スタジオジブリの『海がきこえる』でも方言を担当している。