雪の華(2019年)

雪の華』2019年

 

 1日に何か映画館で観る作品あるかなあ、おっこの作品はそういえば駐日フィンランド大使館さんが紹介していたなあ、フィンランドロケでどんな映像使っているんだろう、ということで観に行ったので、メモ。

 所謂余命1年のヒロインの恋愛物を楽しもうという視点はもともと全く無かったのですが、作中でも明示されていますけれど少女漫画的で、むしろ泣ける恋愛物というよりも喜劇的なファンタジー作品としてはツッコミ入れながら一見してみても良いかも。それからヘルシンキもその市電もフィンランドの鉄道もフィン・エアーも確かに映ってますので、フィンランドとかフィン・エアーのマニア各位は押さえておいて損はないかと。後は最後クレジットの協力団体に飯能市立図書館が入っていておおっとなったので、1カットですがその点に興味のある方もどうぞ。

 という訳で以下は所謂ネタバレ。

 

 如何でしたでしょうか、いやあフィン・エアーの機内での主人公達の食べていた機内食、美味しそうだったんですがまさかサルミアッキ付きとは思わなかったですね。

 

 …という記述が大嘘だと分かった方は以下どうぞ。二重に警告しましたんで、後は宜しく。

 

 またしても地味な眼鏡の女性→明るくなってコンタクトレンズ、という御馴染の展開ではありましたが、如何にもモデル体型でスラッとされてますなあと思っていたら中条あやみってホントにモデル出身の女優さんでした。

 しかし不運続きだったという前半生、病気で辞めた仕事が図書館のそれも非正規雇用っぽい職員というのがまた確かに有り得そうと納得もさせられるようなというところで、そこのカットは何だか世知辛い話題ですなあと幾分真顔になってしまったり。とはいえ、あんなに声が出せないという設定でカウンターやフロアワークが成り立つのか?というこれはこれで図書館職員像のステレオタイプの一端な気も。

 

 前半の東京篇がなかなか喜劇的でどちらかと言えば良かったなあと。男主人公の妹・弟なんかも結構いい感じで、映画でなくテレビドラマで1クールだったらこの辺りもっとじっくり観れてもっと面白そうな、という。もっともテレビだったらフィンランドロケは資金面で難しかったろうなあというところなのだろうけれど。

 

 フィンランド篇は作中の設定では観光とオーロラ観るのがメインで、主人公二人とも別にフィンランド語話す設定でもないのである意味ではそれをしっかり反映していると言えなくもないのだけれども、1人ぐらいフィンランド側にも登場人物が居たりしても良かったかもなあと。例えば終盤に登場するヒッチハイクの車のおじさんをもっとちゃんと描写するとか、田辺浩一演じる医師のような女主人公を見守る立場の人をフィンランド側にも1人ぐらい置いてみるとか。まあでも尺の都合もあるだろうし、中途半端にフィンランド社会を描写しようとするよりも潔かったのかもしれない。夏のヘルシンキの映像を観る機会自体がほとんどないので、そこは良かったなあと。

 フィン・エアーは機内撮影は難しかったのかなあというのと上映時間の枠はあるので、タイアップと聞いて予想したよりも描写自体は少なかったような。パスポートの中に挟み込まれたフィン・エアーの搭乗券をかざしてみせるのはまあいかにもで少し苦笑したけれど。

 ただタイアップしている割には寛容だなあと思ったのは、女主人公からフィンランド行きを提案された時の何だそれという反応が割合写実的だったところでそれは良かった。確かに「ハワイ行こう」とかではないから(もともと万事悪態をつきがちな男主人公なんだけれど)そこで「はあっ」という反応になる訳だけれど、そういう描写が残っているのをスポンサーとして認めるのはなかなか太っ腹だなあと。

 しかし女主人公の預金が図書館勤務にしちゃ多くないか、という以上にカフェ店員として妹・弟の親代わりしている男主人公が良くパスポート持っていたな、という急なフィンランド行きが可能だったというプロットに無粋な感想を有した当方。

 ヘルシンキ市電はなんかウィーンのを連想するなあとか、あの雪の中で電気機関車なのは考えたら昔の北陸本線寝台特急もそうか、とか航空より鉄道の描写の方が見応えがあったような。

 終盤はサスペンスタッチが余り緊迫しているようには思えなかったなあという点と、意外に最後の最後での曲とオーロラの盛り上がりがあっさりしているようなという点はまあこちらが恋愛映画としては観に行ってないからなあというところもあるのだけれど、どんなものでしょうねというところ。

 むしろラストでは、女主人公が男主人公の声を出せ、という出会いの時の励ましを思い出して大声で告白を叫んだら、それに応えて道に迷っていた男主人公が女主人公を発見する…という王道にてっきりなるのかなと思ったら、実は既に無事に到着していて、大声で叫ぶのを真後ろから聞いていてあっさり悪態をつくという、そこは脚本というか描写が良かったなあと。エンディングクレジットの後日談でも別離の寂しさは控えめで、そこも逆にファンタジー的でむしろ良かったようなと。

 感動の悲恋物要素よりも喜劇的なところとファンタジーの要素の方が何か良かったなあと感じたのは、後半の女主人公の母親との描写よりも終盤で男主人公の弟がケガしてたのに松葉杖振りかざして喜んでいる箇所の方が印象に残っていたりする点なんかにも表れていたような。

 あとは雪と言っても平原ではなく森なんだなあと、あの雪の森の中で昔戦争があったんだなあと『物語フィンランドの歴史』読者としては感じたところで。映画としてはいまいち雪を活かせてなかったようなというか、雪と映画といえば市川雷蔵主演『破戒』終盤の白黒の画面の中での雪は凄かったので、いつかもう1度観たいなあという余談。

 

 まあ『植物図鑑』を観て団地描写とか高畑充希の方をメインにした感想書いてる当方なんで、こんな感じでしょうか。

 いっそシベリウスをBGMにしたフィンランドロケ映画、というような企画でもあればまた何時か観てみたいものですが。