近藤喜文展(浜松市美術館)

 浜松市美術館で開催中の近藤喜文展に行ってきたので、そのメモ。

 スタジオジブリ関係の展覧会は全国のいくつかの美術館を巡回して開催されていることがあり(レイアウト展等)、近藤喜文展もその一つで既に大阪梅田・佐賀・宮城・広島等を巡回しての浜松開催。

 浜松市美術館はちょっと古めかしい感じの、それ程大きくはない施設だけれど、浜松城公園の中にある立地が良い。何せ浜松駅からバスに乗ればバス停からもすぐ、バスも130円と良心的な価格なので、非自動車所有者にとっては交通の便が良いことこの上ない。名古屋や大阪辺りからも便利だし、東京からどこかへ東海道・山陽新幹線で往復する途中に下車して観に行くにも結構便利は便利だろう。

 ちなみにバス停を降りて、通りの向かい側にある交番の右側の道を進むとすぐに美術館なのだけれど、そこから敢えて左に大きく逸れて学校の脇の道を歩くと、住宅地のはざまにちょっとした丘というか崖があって、何だか『耳をすませば』のようだなと思った。熱中症にならない範囲で、物好きな方はムタ(ムーンか)を追って図書館を大回りした雫の如く公園を一周してみるのも良いかと。浜松城天守の方は美術館の脇なので、すぐに往復できる。

 どうも一部の宣伝では「ジブリ展」と称されているようで、それは何だか『耳をすませば』の放映時に「脚本 宮崎駿」と大きく出すのと同じ傾向が認められて何だかなと。展示自体はちゃんとスタジオジブリ以前の諸作品もしっかり扱っているだけに勿体ない。

『リトル・ニモ』が『トラ・トラ・トラ!』の黒澤明降板劇の相似形の如く、日米合作のもつれから宮崎駿が降板した作品なのは知っていたが、その後の日本側監督が近藤であることはごく最近まで知らず、今回大量の関連資料が展示されていて幻の企画としての大きさを改めて知った次第。

その中で制作されたパイロットフィルムが今回全編上映されていたが、ローエングリンの第三幕への前奏曲がBGMという物凄い迫力の作画で、まさに速度が凄いが実用化されなかった実験機という感。

あとはこれも製作中止に終わったという『退魔戦記』の資料も多数あり。

個人的に観れて良かった、という物としては

赤毛のアン』のキャラクターデザインと、一番有名であろう一枚絵(LDボックス用の、90年代に入ってからの書き下ろしだったとは知らなかったが)

愛の若草物語』のキャラクターデザイン

『名探偵ホームズ』のイメージボードがたくさんあってこれだけでも満足(その1)。ハドソン夫人が実作より何だか大人っぽい。

「兄妹探偵」もののイメージ画。兄が『名探偵ホームズ』のホームズ風

「浴衣姿の少女」、これ1枚に10個ぐらい同じ少女が描かれていて、何だか昨今増えたアイドルアニメみたい

火垂るの墓』は纏まってみると圧巻。「さくまドロップス」の設定画もあった

おもひでぽろぽろ』のキャラクターデザインと、口パクの処理方法に関する指示書が労働としての作画らしくて面白かった

紅の豚』殴り合いのシーンは用紙のサンプルをパラパラ出来る

実際に使用されていた机。前面が壁でなく棚が作り付けられていた

耳をすませば』のキャラクターデザイン、原田夕子の「この人は美人」という説明の入ったデザインを生で観れてこれだけでも満足(その2)。ラフで鉛筆で薄く書かれているのと、雫等原作に意識的に寄せて描かれた物も多いのが良く分かる。

あとは『耳をすませば』の設定に関するメモ等。兄の天沢航司がまだ残っていたり、原作通り「県立図書カン」だったりしたり。

という感じで、『耳をすませば』に限定せずある意味で相当渋いラインナップとなっているけれど、作画監督やキャラクターデザインを中心とした展示で素人が観てもなかなか面白かった。

近藤喜文の仕事』は厳密には図録ではなく(従って例えば『耳をすませば』のキャラクターデザインは主要人物のみで前述の原田夕子など展示資料でも一部は省略)、近藤の没後に後進の安藤雅司が精力的に編集した追悼企画本の一つで、逆に通常の図録よりも解説・インタビュー等が充実している。また付録として、広島での巡回展の際に安藤が行った講演が小冊子として入っているので、単なる再販ではない。

『ふとふり返ると -近藤喜文画文集-』は2017年5月の第12刷が売られていて、思ったより定期的に増刷が掛かっているようで嬉しい。

浜松市美術館は前述の通りいかにも少し前の公共施設という建築だったので、逆にガラス張りの冷蔵庫のある売店でもあって、牛乳とかパンとか売ってたら『耳をすませば』風昼食がとれたかもしれないな、などと空想しつつ、作画監督やキャラクターデザインの仕事が分かる展示として充実していたと思いながら帰ることが出来た。