小野不由美『風の万里 黎明の朝』上・下

講談社文庫版で揃えていたところに、この夏偶々新潮文庫の新装版を棚で見つけ、かれこれ5年ぶりに中断していたこの巻の途中以降を読み終えた。

陽子も含めた3人の少女が、様々な遍歴を経て出会うというのは、これはあらすじにも書かれていたし、本書の導入部を読んでもまあほぼ予想が付く展開と言って良い。

※未読の方はまずは一読して下さい。

しかし後半は完全にこれ民衆蜂起ですよねえ、まさか王自ら武装蜂起に参加するとは、相変わらず型破りな新王陽子なのだけれど、即位後も決してバラ色ではない前半部の彼女の描写があるのが、本作品らしい面白さであったりする。

ウェブ上で本書の感想を見ると、前半の鈴と祥瓊に対する評価は散々と言って良い。
これは作品の狙いから言っても妥当な読みなのは確かなのだけれど、しかしなかなか鈴や祥瓊のような言動と無縁でいられる程、人はそう強い存在でも、現実の生活が必ずしも充実している訳でもないのであって、むしろ現実世界に対する重苦しい感情を想起させられてしまう。

それから前半部に登場した供王・珠晶に、相変わらず個性的な王を登場させるなあと感じて、これはまた今後の登場が楽しみだ…などと何も知らずに読んでいたので、次の『図南の翼』の主人公が珠晶と知ってとても嬉しかったりしたのだけれど、これは『図南の翼』も買い込んでおきながらあらすじさえ忘れて3年近くも積読にするという、古本好きの実にいい加減な行動のケガの功名で、正統派のファンから石を投げられても文句が言えないところかもしれない。