関千枝子『図書館の誕生』

  • 関千枝子『図書館の誕生 ドキュメント日野市立図書館の20年』日本図書館協会、1986年

 かつて北上次郎は日野市立図書館誕生のこの物語を「水滸伝」と評したが(『図書館読本 別冊・本の雑誌13』本の雑誌社、2000年)、初代館長による前川恒雄『移動図書館ひまわり号』筑摩書房、1988年(再版は夏葉社、2016年)を読了した上で読んでも、全く熱い群像劇に違いない。ノンフィクションライターとして、図書館に関するドキュメントを物にせんとした著者の狙いは十分に達成されている。

 『移動図書館ひまわり号』と基本的な構図を同じくしながらも、本書の独自性が現れているのはより利用者、特に女性と子どもへの視点に力点が置かれていることだろうか。「電車図書館」での子ども達、高幡図書館建設の原動力となった「子どもの本を読む会」の女性たち、読み聞かせを担った女性図書館員の描写を挙げることが出来る。

 日本図書館史と日本現代史、ことにその戦後女性史の研究とが交差する時、そこには戦後日本社会における性別役割分担の中での、主婦・母親としての女性たち、そして働く女性としての女性図書館員の存在が浮かび出て、そこからまた戦後日本図書館史の、日本現代女性史の新たな論点が見いだされていくのではないかと、本書からは読後にそんなことも感じさせられたのだった。

 それからもう1つ付け加えるなら、これ程「図書館映画」「図書館ドラマ」にふさわしそうな題材はまたとないように思われる。何時か映像化企画が生まれることを期待したい。