阿部謹也『ハーメルンの笛吹き男』

 1970年代以降の、社会史を中心とする戦後歴史学の変容を代表する1冊、と史学史の読書案内風に位置づけることも出来るのだろうけれど、そういった予備知識ゼロで読んでも、面白さから一気に読了できるという特色を兼ね備えている1冊だと思う。第2章ぐらいまで、少し時間を掛けて集中して読めば、あとは多分一気に読み通すことは難しくないだろう。本文に目を通さずに数年にわたって敬遠してきた形となってしまったことに、少し後悔している。

 具体的な問いが謎解きとして提示されるけれども、その答え自体はそこまで明解とは言えないにもかかわらず、ヨーロッパ中世史における都市、女性、東方植民、賎民等々の背景を鋭く分析・展開することで、答えを探る過程自体に面白さと研究の深みを感じさせる、優れた歴史書と言えるのではないかと思う。