薄久代編著『色のない地球儀 資料・東大図書館物語』

  • 薄久代編著『色のない地球儀 資料・東大図書館物語』同時代社、1987年

 大学図書館、それも日本の大学図書館の歴史に詳しい層にとっては結構知名度が高いようなのだけれども、本郷に馴染のある東京大学の関係者や十五年戦争に関心のある読者にとっても、本書はなかなか面白く読める1冊だろうと思う。

 著者は元東大の図書館員であり、東京大学附属図書館に残された関連史料の編纂に従事したこともあって、定年退職を機にそれらの史料に基づきながら、東大図書館の歴史を辿る本書を執筆している。

 「第一章 運命の大地球儀」では、関東大震災後の東京帝国大学における図書館復興の過程が辿られる。図書館の復興が、国際協調と文化交流という1920年代の全体状況と結びついていたことが読み取れる記述であり、それゆえに1930年代の戦争の時代への変転の中で、文字通り「色のない地球儀」が登場してくる部分もなかなか印象的で、敢えて表題に選んだのも頷ける。

 「第二章 戦時下の東大図書館」は、別に十五年戦争下の図書館史に興味がなくても、むしろ十五年戦争、特に空襲に関する記録として重みがある。
 勿論東大図書館が、貴重資料の保存という極めて個別的な役割を果たしていたのは間違いなく、山梨県まで資料を疎開させた下り等はそういった側面を反映させた記述である。それにしても、天下の東京帝国大学が所蔵する貴重な資料の避難にもかかわらず、山梨から東京への電話の通話状況が悪かったのはともかく「電報も、その程度の内容では受け付けられないと断わられる」(142頁)ような戦時下の時代状況というものはやはり凄まじい。

 大日本帝国政府と軍部が1941年の12月に出したという「時局防空必携」の空襲に対する認識が犯罪的にさえ思える楽観であることに始まって、やがて連夜のように度重なる空襲への対応に追われ昼間の勤務さえままならなく状況の描写は、当時の都市における役所や事務所での空襲経験一般としても、空襲下の都市の日常をうかがわせる部分となっている。当時のラジオで流れた警戒警報の速記が10頁近くにもわたって再録されている部分も迫力があった。

 東京大学では、現在本郷で新しい図書館の建設を計画中とのこと。