稲田義智『絶対に解けない受験世界史:悪問・難問・奇問・出題ミス集』を巡るメモ(一)

稲田義智『大学入試問題問題シリーズ1 絶対に解けない受験世界史:悪問・難問・奇問・出題ミス集』社会評論社、2014年


1.はじめに

こちらの1冊に関しては、昨日一応の「書評」を既に書いてみたので(http://d.hatena.ne.jp/shigak19/20150705/1436034081)、今回は前回書き落としてしまった、やや細かい話を中心に綴っていくこととしたい。

前回の記事は、まだこの本を読んでいない層を念頭において書いたのだけれども、以下の記事はいわゆる「ネタバレ」を前提に、むしろ本書を読んだことのある層に向けての記事であることを最初にお断りしておく。未読の方は、まずはご一読あれ。


…と書いておいて早速物言いが付きそうだけれど、当方のはてなブックマークを読んでいた層からすると、「何だ、君は著者のid:DG-Law氏や、本書に関わっているid:Mukke氏から普段スターを貰い、更に彼らにコメントまでしておいて、まだ本書を読んでいなかったのか」と呆れられても致し方ない。

後述するように、この1冊を「買う」ことが意外に難航したこと、昨年末から今年初めにかけて私事で多忙になってしまったこと等が思いの外響いてしまったという側面は在ったにせよ、これ程遅くなってしまったのは、基本的には当方の怠惰ゆえであることは間違いない。

以下の内容が、著者のid:DG-Law氏にとって、少しでも役に立つものであれば、一読者として実に幸いなことだと思う。

…と記すと、何やら普段のウェブ上でのやり取りゆえのいわゆる「ステルスマーケティング」の類かという反応も予想されるので触れておくと、私は本書に一切関わっていないのは勿論だし、id:DG-Law氏や校正者にして本書の登場人物(著者の「友人」の一人)でもあるid:Mukke氏には、普段こちらの気まぐれかついい加減なリプライに寛容に反応して貰っているという関係で、従って純粋な「第三者」とは言い難いものの、或る程度は外野の視点でこの本を評価している、とは言えるのだろうと考えている。

むしろid:DG-Law氏の記事を最初にブックマークしたのは、確か「大洗巡礼記」(『ガールズ&パンツァー』の舞台となった、茨城県大洗町への訪問記)だったはずで、歴史関係の記事も読んではいたけれど、まさかこういった本を出されるとは予想外だったと言っても良い。著者が美術史を専攻されていたこと等は、今回本書とブログの自伝的記事で初めて知ったという迂遠な読者なのであった(余談ながら、『マリア様がみてる』のアニメ版を知っていて原作も1巻だけ読んだことがあるので、まさか同氏がかつてこの作品にはまられていたとは、これも意外なことではあった)。

ちなみにid:Mukke氏の場合も似たようなところがあって、東欧研究が御専門なのは存じてはいたけれども、当初ブックマークでやり取りをしていたのは、専ら『艦隊これくしょん』とか『銀河英雄伝説』の二次創作談義だったりするのだけれども、これもまた別の話。

2.本書を探し求めて

「せっかくだから買って読みたいし(身銭を切らないと批判も出来ないだろうし)、出来れば普段通り書店で買って読みたいなあ(普段ネット書店を使っていないのと、店頭で買えばその分がまた店頭に補充されるだろうから、その方が良いや)」という感覚で、地域の比較的大きな書店を探したのだけれども、これが空振りの連続であった。

さる大都市近郊の、東洋文庫が完備されたような地域最大の書店や、某百万都市で新幹線駅の上にある大書店の棚を駆けずり回っても、全然ダメであった。

ところが、偶々訪問したさる高等裁判所が所在する程度の大都市でジュンク堂書店に立ち寄って、検索機で探してみると見事に在庫があったので、脱力してしまった。ジュンク堂書店がさすがと言うべきか、他の書店の体たらくと観るべきか。

この本を店頭で、特に分類が比較的しっかりとなされる大規模書店で探す時に留意する必要のあるのは、どこの棚に分類されるのかが実は明瞭でないということだ。私は大抵は「世界史」のそれも世界史一般・全体に関わるコーナーを探してから、次に「教育」の社会科教育の棚を探し、最後に受験参考書コーナーの高校世界史棚の3か所を廻るということを繰り返していたのだけれども、ジュンク堂の某店舗では受験参考書コーナーに置かれていたのだった。

ちなみに、p.67で著者はCiniiを紹介しているけれども、本書もばっちり同データベースに登録されていたりする。

http://ci.nii.ac.jp/ncid/BB17340183

この財政難の中で、現時点で3つの私立大学の大学図書館と、1つの高専の図書館とが本書を所蔵しているのはなかなかに興味深いのだけれども、肝心の槍玉に挙げられた大学の図書館では所蔵する気配がなさそうなのは、予想されたことではあったがいささか口惜しい。

もう1点Ciniiを眺めていて面白かったのは、大学図書館の分類ではこの1冊を十進分類の376.8、つまり入学試験・受験・塾教育関連の項目に分類し、件名として「入学試験(大学)」と「世界史」を取っているということ。確かに一理あるのだけれども、中身を読むと375.32の歴史教育の項目に分類されても良いかもしれない、とは思うところ。

さて最後にいささか自己弁護めいた批判を加えておくと、著者自身も本書の表紙の少女の挿絵は不要であると主張されたとのことであるけれども、購入する側からしてもこの表紙には問題があると思う。理由は2点あって、第1はこれは既にid:Mukkeさんが主張されているところだけれども、こういった描写は本書の読者層を男性に狭めかねないということ。例えば絶対王政フランス革命に関して既に柴田三千雄を読んでいるようなフランス革命マニアの少女とか、ハンガリー史マニアでナジ=イムレとカーダールについて語れる少女とかも実在しているかもしれないのであって、そういった「歴女」達に対してこの表紙はいかがなものかと感じてしまう。

第2に、これが自己弁護と言われればそれまでなのだけれども、この表紙では注文して取り寄せるのにある種の「勇気」を必要とするので、販売戦略として失敗なのではないか、という点は挙げておきたい。社会評論社の編集者の方は、本書を企画した点については大いに評価したいのだけれど、この表紙では例えば大学生協の書籍売り場で大学の教員クラスが発注出来なくなってしまうことは十二分に考えられるので、潜在的な購買需要を自ら減らしてしまうのではないかと、この点は真剣に懸念をしてしまう。私は別に教員でもないし社会的地位も伴わない存在だけれども、地域の馴染の書店で本書を発注するのは躊躇ってしまったという側面は確かに存在するのだ。


結局また内容まで踏み込めなかったので、さすがに次回は内容に踏み込んでいきたいと思います。