回顧・2014 読んだ本 附 読んだ漫画

 来年に向けて準備しなければならないことも、学んでおかなければならないことも、片付けておかなければならないことも山積していますし、その上風邪気味ですけれども、そこからの逃避として簡潔に(そもそも読書は一種の逃避と言って良いのかもしれないと思います)。



 第一次世界大戦百周年ということで、当初は色々読んでいこうと計画していた割に、悲しいかなほとんど読めず仕舞い…。木村靖二『第一次世界大戦ちくま新書、2014年やベッケール・クルマイヒ 剣持久木・西山暁義訳『仏独共同通史 第一次世界大戦』上 岩波書店、2012年などは積読のままに…とこのペースで記していくと積読本・未読本紹介になってしまうので、以下の項では省略します。

 もともと世界歴史叢書の1冊として刊行され、去年久しぶりに品切が解消され新装版が出ています。数年ぶりに読み返してみると、1世紀前のヨーロッパの社会主義者たちの直面した問題の大きさが印象的です。
 有名なローザ・ルクセンブルク等、ポーランド社会主義者たちはどの「国」の代表として第二インターナショナルに参加するのか。オーストリアハンガリーの中でのチェコ社会主義者はどうか。第二インターナショナルもまたナショナリズム民族自決に関して難問を抱えていました。

 そして1914年夏の開戦。ドイツの中立侵犯に激怒するベルギーの社会主義者たち、ロシアの「ツァーリズム」の「暴虐」への抵抗からドイツ帝国に協力していくドイツ社会民主党、ドイツの侵略への対抗から戦争に加担していくフランス社会党
 反戦平和を掲げた第二インターナショナルの諸政党がナショナリズムの前に崩れていく姿は、恐らく何処の、何時の平和主義に対しても問いを残していると感じさせられます。



 今年はトンキン湾事件から半世紀でもありました。
 戦闘部隊に取材カメラマンとして従軍した際の場面も勿論多いのですが、南ベトナム政権の反動振りが伝わってくるサイゴンでの場面や朝鮮半島での取材の様子なども読み応えがありました。そしてラオスでのある将校への訪問記は、旧日本軍が侵略を行った第二次世界大戦の上に戦後インドシナ半島の歴史が展開されているということを印象付けられる部分でした。



 古典的な研究主題か、より新しい研究主題か、というのは卒論のテーマ選び等々で良く取り上げられる話題ですが、中国史を専攻していた著者がベトナム史研究へと進んでいく姿が印象的です(それ以外の部分の記憶はどうしたの?)



 1944年の太平洋戦線、マリアナ沖やインパール作戦に比べるとレイテ沖海戦やレイテ戦について知らなかったなあと反省しつつ。
 前者の方は第何師団第何連隊第一大隊、といった部隊名の羅列で公刊戦史以上に公式的な文章に読めたのですが、終わりまで読むと著者の公刊戦史と公刊戦史でまで作戦指導の拙さを隠そうとする旧陸軍指導者に対する凄まじい批判がこういう文体を作り出したのだということを痛感させられ、これ程部隊名の記述の重い書物は初めてだったように思います。
 後者は元少年兵の著者が、架空の少年兵の視点から戦艦武蔵最後の出撃を描いた小説で、元学徒動員の予備少尉によって書かれた『戦艦大和の最期』と対照的。ごくありふれた人々が様々な形で軍隊に入り、しごかれいじめられた挙句に戦闘で倒れていく姿をある機銃分隊に即して示しています。前者が中公文庫で未だに書店に並べられているのに比べると、品切絶版が続いているのは少々残念(しかしこれだけしごき・いじめの場面のある作品に児童向け版があるって…かなりリライトしてあるんだろうか)。
 


「戦後歴史学」最高の名著とさえ言われる本書、歯は立たなかったけれども「これはすごい」と言わざるを得なかった一冊。実は執筆されたのは戦時下の1944年、結局その後70年間でどれだけの歴史書が書かれただろうかと…。法規範の話にせよ、反動権力の話にせよ、一つの地域から中世世界全体を問う視点にせよ、日本古代史・日本中世史といった枠を超えた迫力にただただ圧倒されてしまった格好。

この調子じゃ年越ししても終わらない、という訳でややペースを上げて。



 今度は1934年頃ということで。中国大陸での日本軍部の好き勝手さと、制度としては確立された政党政治の落日ぶりとを歯切れよく描写していく。
 某駆逐艦を用いた比喩は、今だと某艦隊ゲーム関連でウェブ上では意外にすんなり通ってしまうのでは。




  • 井上勝生『明治日本の植民地支配 北海道から朝鮮へ』岩波現代全書、2013年

 日清戦争下の朝鮮半島における日本軍のジェノサイドという重い問題についても取り上げているのが本書。
 1894年の日清戦争自体については読めなかったのですけれども、著者がこの主題を取り上げた発端となった衝撃的な事件から始まって、謎と問いとがつながっていく、一筆書きの圧倒的な記述でした。現時点で岩波現代全書のベストワン…そもそもこのシリーズで読み通した物が少なすぎますけれども。




 そういえばこれまで敬遠していた鎌田慧をある程度読んだのも今年でした。前者は副題の通り著者が「季節工」としてトヨタ自動車の工場で…「働いた」ととても一言で言えないような凄まじい体験をした記録、後者は著者が上京後に働いて、やがて取材をして書いていくようになっていく様子を自伝的に振り返ったもの。「上から」でない労働運動史・労働運動論として、ブラック企業批判が急務の現在においても振り返るだけの原点足り得る経験では。



 今年読んだ中公新書の中ではベストです(そもそも他に…以下略…)。事象から導いた概念を徹底的に問い続ける、こういう姿勢が思想史の仕事なのかと市村の文章を読んで思いました。



 編者・編集者たちの付言でも散々言及されているように、それ程体系的ではないので、人生全体を記している訳ではないので通常の回顧録と思って読むと調子が違うかもしれませんが、対談形式なので却っての面白くなった部分もあるし、戦前と戦後の南原の違いという論点に関しては一読の価値ありかと。南原が早稲田から招致して東大に出講した津田左右吉右翼団体から糾弾される事件については、聞き手の丸山眞男も証言しており臨場感があった。どうも現在の自称保守的言動とダブって読めてしまったのですけれども。



 今年の古本関連の本では一番の収穫。とにかくゆるい感じがいいのです。
 古本に興味がなくても、東京でフリーランスの仕事をしながら何とか一人で生活しなければならない人にとっては、すぐに参考になる案外実用的な本なのかもしれません。



前者は図書館、後者は文書館の入門書。研究者の書いた概説書とは共に趣の違う本ですけれども、むしろ図書館学や文書館学を専門としない人間にとっては最初の1冊として有益でした。



東欧関連再読本。しかし前者を読んでも全く語学を学習しないというのは読者としてどうなのだろうとも感じます。後者はカーダールとヤルゼルスキが印象的で、チェコとスロヴァキアの分離はスコットランドカタルーニャとの関連でももう少し掘り下げてみたくなる事例。




附 漫画編

 漫画だけで記事を書く程には読めなかったので。

 上半期はほとんど青池保子で、青池作品だけで1年終わってしまうかと危惧していました。
 単発の衝撃度は『イブの息子たち』1 白泉社文庫でしたけれども、1巻しか入手しないままに終わったこともあって、シリーズ全体としては『エロイカより愛をこめて』秋田文庫の旧連載分が一番面白かったということになりそうです。007シリーズ辺りを観たことがあると、スパイ作品の定石を巧くパロディにしていると感じさせられるはずです。そして外伝の『Z』(ツェット)白泉社文庫の方が硬派で、作者がしっかりと堅いスパイ作品も取り上げられるからこそ前述の作品の無茶苦茶さが出るのだと思わされるような作品でした。

 佐伯かよのでは『熱帯椿』秋田文庫が短編として、それから近年の後期作品の中では『永遠の夜に向かって』1・2 講談社漫画文庫が意外にしっかりとSFになっていて、それぞれ結構読めました。

 やまむらはじめ『天にひびき』少年画報社はようやく7巻まで。間が空いて久しぶりに読むと、ゆったりとした展開と専門性の丁寧な描写が改めて面白いのですけれども、何と今年で一区切りだったという…。
 同じくクラシックを題材としていた、くらもちふさこ『いつもポケットにショパン』全三巻 小学館文庫もようやく積読解消です。こちらは随分劇的というかある種サスペンスタッチな部分がある作品なので一気に読めてしまったのですけれども、作者自身の言うようなゆったりとした雰囲気での展開を読んでみたかったようにも思います。『天にひびき』に比べると家と両親の問題が大きいのは特色で、特に母娘の関係は面白かった部分。しかし麻子のような主人公は近年の作品ではそうそうお目に掛かれないもので、さすがに時代の移り変わりを感じます。



内容的にも文章的にも乱雑でごった煮状態ですけれども…初めて書籍に関して一年分の回顧記事が書けたので、取り敢えずはこれで良しとして今年最後の更新と致します。