読んだ本 萩尾望都『11人いる!』

 人類が地球から多くの星々に進出している遥かな未来、宇宙大学への入学試験は実技試験にさしかかっていた。受験生たちは10人一組となって閉鎖された宇宙船で過ごす課題を与えられる。しかし宇宙船に集合したのは何と11人だった。

 表題作自体は100頁程の中篇であり、分量的には外伝を含めても文庫本1冊に収まる程度なのだが、これだけの短さでこの面白さを生みだしている構成力に素直に感心させられた。『十五少年漂流記』を持ち出すまでもなく、物語としての骨格は古典的な児童向け物語群と比べてもそう遜色の無い、読み始めるととにかく読まずにはいられないような面白さを醸し出してくれている。SF色とミステリー色も、SF作品或いはミステリー作品としてではなくより始原的な物語としての面白さに寄与していると言えるだろう。

 しかしながら、勿論いわゆる子供向けの「健全」な物語とも異なっている。異星人という存在はともかくとして、登場人物の一人フロルという形で提起されている問題はおそらく近代の教育的物語ではまず触れられない性質のものだ。この物語がその点抜きには成り立っていないということは、この作品がその設定や趣向にどこか擬古典風のオーソドックスさを込めているにもかかわらず、現代に生み出された物語でもあることを良く示している。