読んだ本 萩尾望都『ポーの一族』

 少女漫画の歴史に名を残す名作として知られる作品。辻惟雄『日本美術の歴史』(東京大学出版会、2005年)で古今の美術作品と共に平然と取り上げられていたのを覚えている。ただ私の周囲だけなのかもしれないが、読んでいる人に接した記憶は無い。例えば同じ作者の『11人いる!』と比べても、インターネット上でも思った程言及されている訳でもない。ドラマCD化はされているようだが、アニメーション化などはされておらず他の媒体で取り上げられなかったことが影響しているのだろうか。

 どういう訳か、カヴァーのあらすじにもはっきりと明記されているのだが、ポーの一族がどういう一族であるのかという設定を全く忘れ彼らが時間を超越して生きるということのみを前提にしたまま読みだしたので、読み出して「ひええ」と声でも出しそうな気分になった。美しさよりも先にエドガーたちの物凄い生き方とそれを描く作者の発想に引き付けられたような格好。

 表現とその方法とに言及しないで設定のみを取り上げるのは妥当ではないだろうけれども、イギリス・ドイツを舞台にしてやはり18世紀の貴族たちの館から20世紀のギムナジウムまでを違和感なく取り上げているのはさすがだと思う。近代科学、世界大戦、東西冷戦などもさりげない形で描いている。
 そしてポーの一族の設定からして面白い。彼らが時間からは解放されて不老であり、個々の人間を圧倒出来るだけの力を有しているのに、空間的には人間と共にあらねばならず、群衆に抹殺され得る存在であるがゆえに彼らは苦悩を抱えて人に知られぬよう生きていかなければならない。この設定が面白さの要素の一つだろう。

(1月27日に一部加筆)