読んだ本 坂野潤治『明治国家の終焉』

 『大正政変』(ミネルヴァ書房、1982年)を改題・加筆訂正した物。予算問題を巡る政友会・元老・陸軍・海軍・国民党などの非政友派・貴族院など各政治勢力の動きを丹念に追って日露戦後の政治状況を描き出した一冊。著者自身も本書以降の著作(例えば『近代日本の国家構想』岩波書店、1996年)程には問題意識を前面に出していないことを認め、「価値中立」的であるという批判を受けたことに言及している。そのような性格の為に叙述としては極めてバランス良く構成されている反面、何が明らかになりそこからどういうことが考え得るのかという点をすいすい読み進めていく中でつい忘れがちになってしまう部分もある。
 ただ叙述の方法自体は歴史研究に限らず政治物のノンフィクションや雑誌記事などについても考える上で参考になるだろう。数十年を経て当事者の記録が公開されて初めて書くことが可能な記述であることは分かっているけれども、同時代の政治についてもこのくらいしっかりと基礎的な事実関係を分析したレポートがジャーナリズムによってなされれば、という感想をつい抱いてしまう。