読んだ本 9月

 旧版と新版。内容には基本的に違いが無い…と思っていたが、良く見ると日本陸軍のエースの項で旧版は上坊良太郎を最多撃墜記録者としているが、新版はノモンハン戦のエース篠原弘道になっていて上坊はリストにすら入っていない。旧版では記録の不備のため暫定的なものに留まるとは明記されていたけれど、一体どういう変化によるのやら少し気になるところ。
 
 第二次世界大戦について、いわゆる欧州戦線に絞って「六つの決定的な戦闘」を中心にその戦争経過を追った本で、編年的な通史ではなくエッセイ風。いわゆる戦史であって、戦争や軍事を通じて社会や歴史を解明しようとする軍事史に比べると視野は必ずしも広くはないが、戦闘や戦場の具体的な様相を無視して時代の流れのみを追うのにも限界が在る以上、こういった本で戦闘の経過を追うのも一定の意義は在るだろう、と思う。欧州戦線のみを扱って日本軍が直接には登場しないので、某社の戦史物で「我が攻撃隊は」「我が艦爆は」といった表記があって苦笑させられたのに比べると、割合各国を(と言ってもドイツ・イギリス・アメリカ・ソ連などの大国が中心になりがちではあるが)バランス良く捉えている感は在る。

 バトル・オブ・ブリテン、独ソ開戦、エルアラメイン、スターリングラード、ノルマンディー上陸、アルデンヌ作戦の六つの「決定的戦闘」を振り返った第一部を読むだけでも欧州戦線の概要を辿ることが出来て、高校から大学教養レベルの歴史を学ぶ上でも役立つとは思うが、個人的には第二部の内アメリカ空軍のドイツ本土爆撃とドイツ空軍の防空戦・ドイツの軍需産業を扱った章や、ドイツ海軍のU・ボートによる通称破壊戦とそれに対するアメリカ・イギリスの海上護衛戦を扱った章などが興味深いところ。戦争の全期間を通じて現れた兵器生産・補給・制空権・技術開発などを巡る争いが浮かび上がっていて、代表的な戦闘を扱った第一部よりも総力戦の様相を捉えて社会や戦争について考える上でより広い層に参考にはなると思う。あくまでも戦場・戦闘からの視点に留まっている、という点には注意した方が良いのだろうけれども。60年代に書かれた本書の記述では顧みられていないことは何かという批判的な観点から読み直してみても有益なのだと思う。

 それにしても、ドイツ軍の勝敗にヒトラーの戦争指導が良くも悪くも影響を与えていて、チャーチルスターリンが戦略面でも役割を果たしているのが伺えるのに比べると、日本の東条英機以下の最高指導部が純軍事的な領域で果たしていた(特に個人レベルで特定できる)役割というのははっきりしないものだと思わされた。

 
 米内は1944年から敗戦を経た海軍省の廃止まで海軍大臣だった訳だが、本書を読んでもやはりどういうことをしていたのかが具体的には良く分からない印象。著者の歴史に対する見方には同意できない面が少なくないのだけれど、戦時よりも戦前の辺りの記述の方が読み応えがあるように感じるのは、編年体の構成を取りながらも時に叙述を省略しながら逸話を配して海軍を描いている筆致が読み易いからだと思う。その辺りに前述したような歴史小説としては不満な面もあるのだけれど。

 宇宙に関係する話で(『プラネテス』と同じく)NHKがアニメ化した、といった程度の予備知識で読み出したのは実はMF文庫版の『エリア88』の巻末でこの作品が宣伝されていたのがきっかけだったりする。絵柄で予想したよりもハードで(最近漫画や児童文学を読むたびにこういった感想を抱いている気がするけれど、そもそも漫画や児童文学が一般的な小説に比べて「ソフト」な訳ではないのが自明で在る以上、これは随分と情けない感想だとは思う)、宇宙というSF・科学技術色のする題材である一方で一種の民俗的な、土俗的な世界を描いている。宇宙という舞台によって人間社会の歴史や未来を捉えようとした作品がかつては多かったのだろうけれども、最近は思想や個人の内面を描くための存在として宇宙という場が設定されていることが顕著な感も。外伝的な作品が掲載されていることも在って予想以上に展開はゆるやかだったので次巻以降次第の巻。

 
読んでいる本

 買っていたはずの文庫判が出て来ないので以前入手していた単行本を引っ張り出して読むという、無駄の多いことをしている。イタリアのエチオピア侵攻辺りまで。イタリアがドイツ側につくことに決した時期は意外に遅いということを改めて知る。
 時々(特に政権から距離を置いている際に)休暇先で絵を描いていたという回想部分が在り、絵を描くのが趣味だった宰相と美術学校入りに失敗したこともある独裁者が対立していた訳か、などとどうでも良いことを思ったり。

 個人的には「なぜ成長を描かなくなったのか」という主題はさておいて個々の作品を観る視点や、単なる作品のカタログではなく、有名な作品であっても言及していないといった作品の選択が面白い。それから「4章 アニメ(女の子編)−魔法少女」の冒頭部は著者が大真面目に論じているのか皮肉を交えて淡々と記述しているのか妙に可笑しくて、ともかく苦笑させられた。多分後者のスタンスだと思っているのは私もどちらかと言えば後者のスタンスで言及されている作品に接するだろうから。