読んだ本・読んでいる本 8月 その3

読んだ本

 一文一文に「パリ発」「メルボルン発」「アトランタ発」など新聞記事風の小見出しが付いているように、演奏旅行で訪れた各地に関わる話題で綴られたエッセイ集。音楽それ自体についての話題はそれ程多くはなく、演奏会のために各地を訪れる指揮者の視点から書かれた旅行記といったところ。もっともこれくらいあちこちを移動している様子を読むともはや「旅行」という気はしてこないのだけれど。

 書き下ろしではなく講座や雑誌向けに書かれた文章を集めた物なので、分量と内容の面では表題から予想されるよりも読みやすい。基本的に日本史一般について論じられているのである特定の時代についての専門的な話は多くはないのだが、それでも日本中世史についての知識が在る方がより読みやすいのだろうな、と思わされる箇所が一部に在った。 
 歴史学の入門書としては、マルクス主義歴史学の立場から書かれていること、史学史と歴史教育論の占める位置付けが大きいことが特色だと言えるだろう。今日のようにマルクス主義歴史学という枠組み自体の意味が大きく変わってしまった感のある時点から見ると、当時はマルクス主義歴史学の有力だった時代という印象があるだけに、意外にマルクス主義歴史学についての課題を多く取り上げている風に感じさせられた。
 福沢諭吉・田口卯吉・原勝郎・中田薫津田左右吉らの日本中世史観を辿る一文などからは、史学史とはこういう風に過去の問題意識を読み取って研究の歴史を捉えていく方法なのだろうと思わされた。