読んだ本・読んでいる本 8月 その1

読んだ本

 かつての貧困問題の実相を知りたい人は、本書よりも例えば中村政則『労働者と農民』(小学館小学館ライブラリー版在り)とか、(私自身も未読なので他の人に薦められたものではないのだけれど)横山源之助『日本の下層社会』(岩波文庫)、細井和喜蔵『女工哀史』(岩波文庫)辺りを当たった方が良いのではないかと思う。本書は貧困問題を活写したノンフィクションというよりも、貧困問題を論じた評論のはじめと言った方が良いのだろうから。それにしても今日の経済学のイメージに比して随分と思想という印象の強い文章だと感じさせられる。

 固有名詞などの点で中学生には比較的難しい水準だと思う(山川出版社から出ている県史シリーズよりは平易だと思うので、高校日本史の入門的なレベルだろうか)。現時点で読むとなると90年代と2000年代の視点が欠けるのも少し苦しい。更に史跡案内、ガイドブックとしては統一性に欠け、中高生などにとって使い勝手の良い地図なども無いので、失礼ながら現時点では商業的に余り成功していない様子なのも何となく分かる。
 ただ近世史と近現代史をまとめて扱っていること、(特に近現代で)時代の流れを踏まえた記述になっていること、経済や生活・文化を中心としていることなどが優れている点だと思う。
 
 地域史関係の岩波ジュニア新書の多くは修学旅行案内などの史跡案内・ガイドブックという体裁で纏められることが多く、通史的な地域史は余り多くないようだ。本書と同じ20年以上前に出版された大阪、東北、九州などについての史跡案内や地域史の入門書も品切重版未定となっている。史跡案内という枠組みに捉われずに、歴史的な視点から地域を捉える入門書はもっと多くても良いと思う。日本史に限らず、アジア史やヨーロッパ史などについても優れた地域史の入門書がもっと増えて欲しいところ。

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